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これは15年くらい前の写真だが、
いまでも全然変わっていない風景だ。
〔焼鳥学入門(ささもと)〕 (1)
辻 真須彦( 辻バード) 1985年 12月15日
週刊「パンニュース」連載より
  ボクがヨーロッパの「食い歩き」ばかり書くので、西洋料理だけが好きな
男と思われている。ドッコイ「中国料理」も大好きで、自分でも作る。
「寿司」「そば」「テンプラ」は結構うるさいし、「和食」で一杯も、よく
やってる。「台湾」「韓国」「モンゴル」「ベトナム」は我が家の大好物
で、子供は「せんまい」だの「子袋炒め」だのが大好きである。もっとも、
ボクが家でほとんど「米の飯」を喰わないのは確かだけど。とりわけ、
「やきとり」については色々と研究していて、いつかは「焼鳥学入門」と
言う本を書いてやれと思っている。

 「焼鳥」は、鳥を使う「とりとり」と、豚を使う「とんとり」の2極に
大分類される。これに、それぞれ贔屓があって、両者が論争すると、しま
いに喧嘩が起こる始末である。僕はズーット30年間「とんとり派」で通
して来ている。

 ヨーロッパの料理では「牛・豚の内臓」は重要な位置を占めている。フ
ランスの「シャリュキュットリー」ドイツの「デリカテセン」は、この
「内臓」なしには成り立たない。フランス料理のメニューには「胃袋」
「膵臓」「脳味噌」「喉肉」「尻尾」と、あらゆる部分が出てくる。しか
し、日本では、家庭で「内臓」を食べるとすれば、せいぜい「レバー」か
「タン」くらいだと思う。ところが、不思議なことに「焼鳥=とんとり」
を食べるときだけ、この「内臓」が登場するのである。

 特に、中年の男たちは、家庭では絶対食べない「子袋=女性性器」
「ホーデン=男性性器」「軟骨=のどぼとけ」「はつ=心臓」「しろ=小腸」
「がつ=胃袋」などを、嬉しそうに食べている。「とんとり」は、日本の食
生活に忽然と現れた「西洋食文明」である。そして、どうゆう訳かこの
食材料は、なかなか日本の家庭に入って行けないのだ。肉屋のケース
には、「精肉」ばかり並んでいて、これら「内臓」類は簡単に手に入らない
のである。これは「屠殺場」から「店頭」までのルートが、精肉と内臓では、
全然違うと言う理由にもよるのだが。

 さて、ボクが30年以上も通っているのは、新宿西口仲通りにある「笹本」
だ。この界隈に、少なくとも30軒は「やきとり屋」があるが、この店だ
けは常に満員である。周りの店がガラガラでも、「笹本」だけは、店の前
でお客が待っている。その上、この店には看板もなければ「赤提灯」も、
無い。今は、息子が主に焼いているが、ここの親爺の持っている独特な
「焼鳥哲学」が、こんなに我々を引きつけるのだ。その哲学と、そこから
出てくるシステムが、冬の雨降りの夜でも、傘をさして濡れながら待つ客
をつくるのである。この店の秘密を一言で言えば「フレッシュ」、それも
「超フレッシュ」なのだ。
                     (続く)

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