「ボクの味て歩き」
行き付けの店たち(2) 「がんこラーメン」(2)
辻 真須彦 1986/04/25パンニュース
 「がんこラーメン」はけっして立地なんか良くない。むしろ,悪い。でも,ここには是非一回行ってもらいたい。この店を良く観察すれば,どんな商売の人でも,考えさせられるに違いない。パン屋さんも同じことである。ボクが「パンニュース」になんでも書くものだから,「何故パンの新聞に『焼鳥』のことなんか書くんだ」と言う人がいる。しかし焼鳥だろうが、ラーメンだろうが,天麩羅でも蕎麦でも,流行る店には共通の法則がある,とボクは思う。

パンだって,この共通の法則に合致すれば,人が列を作るにちがいない。よそのパン屋の売上高ばっかり気にして「そんなに売ってないはずだ?」なぞと勝手に推測しているよりも,食べ物に共通する「繁盛の原則」を研究したほうがましだ,とボクは言いたいのだ
 さて,看板が全然ない,中が見えない。そんな店に初めて入るのは,勇気のいることだ。表にに人が待ってなくて,お客の足を数えてみて,あき席があれば,ガラッと戸を開けて入ってみたらよい。ぼうず頭の若い主人は,貴方が初めての客だと察して「チャーシュウは」「スープは」「麺の茹でかたは」と聞いたあと「標準で行きますか?」と言うはずである。

どうせ「ラーメン」しかないのだし,全部500円だから安心してまかせていい。となりの「偽がんこ?」は,ちゃーんと色々なラーメンが書いてあるし,値段も明示してある。「本物がんこ」はラーメンとも書いてないし値段も書いてない。
 一人で真剣な顔つきをして麺を茹で,スープを注ぎ,「はい,お待ちどう」とドンブリを出してくる。この人は本当にラーメンを愛している顔つきをしている。ここのラーメンは分類でゆけば,どんな地方のラーメンか? 「関東ラーメン」でも「博多ラーメン」ない,勿論「札幌ラーメン」では,ない。

 スープは非常に澄んでいて,しかも油ぎってこくがある。麺は縮んだ中細だ。葱を刻んでちらしてある。その丼の中心に,円形の巨大な「チャーシュウ」が鎮座している。見るからに心のこもった神経の行きとどいたラーメンだ。
 「スープはコクが命」と開店当時は表の立て看板に書いてあった。(今はそれもない)その通りコクのある素晴らしいスープだ。麺もシコッとして、しかもサラッとしている。そして中央に据えられた「焼豚」は、本当に心のこもった「チャーシュウ」である。

 豚のバラ肉が渦巻き状になって、脂身と肉が層になっている。普通のラーメンは「焼豚」といえば、モソッとした脂気のない肉が、ケチケチと薄切りにしてあるだけだ。「脂っこいの」とボクが言ったら、ここの主人が「それでいいのです」と大きくうなずいたのは、この「チャーシュウ」だったのだ。
 無我夢中で食べ終わったら、たぶん「がんこ」と書いたカードをくれるかもしれない。これには◎あなたはスープの出来・不出来の判る食通です。がんこの正会員と認めます。◎あなたの好みは◎麺の固さは◎醤油の濃さは◎脂の、こってり、あっさり◎ご自由にどうぞ!と書いてある。

 この「がんこラーメン」は、普通の日は夕方六時から夜中の一時までやっていて、昼間は閉まっている。ただし、注意しなければならないのは、祝日と金曜日が休みだということである。日曜日は五時から夜中の十二時までやっている。
 ある時、ボクがそのことを訊いたら「金曜日は一番流行るから閉めるんです」「日曜日の夕方は一番ヒマだから開けるんです」という返事が返ってきた。

 追記:前回ボクは「ミソラーメン」はやらないと書いたけど、実は「札幌式」ではない、素晴らしい「味噌ラーメン」が頼めるのがわかった。